SYとK-hallについて、採用される機器のメンテナンスシナリオをまとめる。まず、我々は高度なロボットシステムに依存したシナリオや、あるいは将来の技術開発を信ずるという無責任な立場は採らない。基本的に人間の手によるメンテナンスをおこなうが、当然、作業者と保守される機器との間には十分な厚みの遮蔽体が存在し、作業者が十分な時間を保守作業に費やす事が保証されねばならない。また保守される機器は、その十分な厚みの遮蔽体を介して長いトングや取っ手、あるいは棒によって簡単に交換、更新が行われうる構造でなくてはならない。このことから真空、水、電力、信号の即着脱システムの採用は不可欠である。
そこでまず各論に入る前に、この機器と作業者の間に置かれるべき遮蔽体の概略の厚みを推定してみる。別の設問をするならば、我々はメンテナンスのために、どこまでT1標的(30%ロス標的)に近づいて実施できるか、である。この事をEP1のK5標的を参考に考えてみた。 まず、次の事実を前提とする。
JHF-PSでの750 kWのビームと、KEK-PSでの最近の取り出し実績である1.5 kWのビーム(遅い取り出し時)を比較すると、ビームパワーで500倍違う。標的での中性子発生量も500倍違うであろう。次に、この500倍の中性子を500分の1にする鉄の厚みを計算してみる。鉄の中性子に対する減衰長(1/eになる長さ)は25 cm(コンクリートなら65 cm)である。では500分の1になる長さは25 cm かける 、つまりわずか155 cmである。したがって、標的アッセンブリの周囲を有効厚さ155 cmの鉄のチムニーで取り囲んでしまえばその表面での中性子束はKEK-PSのK5標的と同じである。このチムニーの周りにさらに1.9 mのコンクリートを巻けば、その外側では我々が現在サービストンネルで行っている作業と同じ環境で仕事が出来るはずである。
有効厚と言ったのは、標的の真横以外の機器やサービススペースについては、多分角度45度くらいで振り上がるジオメトリーになるので、斜め通過を考慮に入れて、実際の鉄の厚みは1 m程度で十分だろう、という意味である。鉄の周囲をコンクリートで覆うという事は、放射化した鉄からのガンマ線を遮蔽するためにも必要である。逆にガンマ線を遮蔽するだけで良いのなら、コンクリート厚は50 cm程度くらいにする事も可能であろう。
これと同じ議論を電磁ホーン中のニュートリノ標的に関しても行ってみる。現在KEK-PSからの速い取り出しビームの実績では、パワーは5.2 kWである。ホーン中の標的でその8割を失うので、4.2 kW程度の標的である。また、T1標的は750 kWの3割を失う標的なので225 kW標的である。つまりロスの比が約54倍である。なので、鉄1 mを新たに足せば、現在ビーム終了後ホーンのサイドで実現している環境が、ハドロンビームライン付近で実現できるはずである。ホーンの横方向の遮蔽は、現状ではコンクリート50 cm+鉄1 m+コンクリート50 cmであるので、実は鉄2 mに外周部にコンクリート50 cmを加えるくらいで十分であろう。ビームロスが点線源であることを考慮すると、遮蔽体が厚くなることによる遮蔽効果に加えて線源から遠くなる効果が期待できるので、遮蔽体はさらに薄くできるであろう。
SYにおいては、最大の線源は2%ロスのビーム分割器である。分割器その物は熱の問題もあり、直ちに実現は困難だが、かわりに同程度の標的をおいて二次ビームを発生させる可能性もある。そこで2%のロスは15 kWに相当する。4.2 kWの3.6倍である。であるので、鉄30 cmを追加すればよい事が判る。つまり鉄1.3 mの外にコンクリート50 cmである。標的付近以外では基本的にロスは少ないので、これより薄い遮蔽で十分である。 以上の議論から、