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1.2 ビーム光学

50GeV-PSからの遅い取り出しビームラインのレイアウトとそのビーム光学について述べる。ビーム光学は、TRASPORTプログラムを用いて計算された。計算の初期値となるべきビームパラメータは、加速器から取り出された直後、最後の取り出しセプタム電磁石の出口、のビームの状態で与えられる。しかし、現時点では、加速器グループからは速い取り出しビームのパラメータのみが提示されている。従って、遅い取り出しビームラインのビーム光学は、速い取り出しのパラメータを仮定して計算された。2000年9月1日付けの富澤氏のメモに従って、速い取り出しビームのパラメータを表1.1にまとめる。


表 1.1: 速い取り出しビームのパラメータ
  $\alpha_{x}$ -2.401 $\alpha_{y}$ 0.391
  $\beta_{x}$ 32.435 m $\beta_{y}$ 8.654 m
y 0.518 m  
y' 0.084  
$\Delta p/p$ 0.31%  

このとき、取り出されたビームは、加速器の周回軌道(遅い取り出しの直線部)に対して4.8度の角度を持つ。取り出しセプタム出口でのビーム位置から、4.8度の傾きをもって加速器側に直線を引くと、6.2 m上流に遡ったところで加速器の周回軌道と交わる。この交点を仮想取り出し点と定義し、これを遅い取り出しビームラインの起点と定める。 ビームの大きさはビームエミッタンスに依存する。加速器の公称デザイン値は6.1$\pi$ mm$\cdot$mradである。遅い取り出しの場合、取り出し機器とビームの相互作用や取り出しビームの軌道制御の影響などいくつかの理由で取り出された後のエミッタンスが実質的に増大することが予想される。大強度陽子ビームを扱う場合、少しの割合のビームロスでも機器の寿命や保守作業に与える影響が致命的になりうる。さらに、ビームの中心軌道の変位についても対応しなければならないため、ビームラインのアクセプタンスはビームのエミッタンスに対して十分な裕度を持たせなければならない。従って、ビームライン電磁石のアパーチャは、公称値の4倍のエミッタンス、24.4$\pi$ mm$\cdot$mradを受け入れられるように決定された。

1.2に計算されたビームのエンベロープを示す。水平・鉛直方向にそれぞれ2本づつエンベロープが描かれているが、それぞれ、内側の線がエミッタンスを6.1$\pi$としたときで、外側が24.4$\pi$としたときに相当する。ビームラインは、次の5つの区間にわけることができる。

  1. 整合区間(起点から最初の59 m)
  2. 振り上げ区間上流(次の50 m)
  3. 振り上げ区間下流(次の40 m)
  4. T0−T1区間(次の60 m)
  5. T1-T2区間(次の40 m)

1.は、加速器から取り出されたビームを位相空間上で回転させて下流のビームラインのアクセプタンスに整合させるために必要な区間である。ここで、5つの収束電磁石(Q)を用いて区間終点でwaistビーム像を実現している。次の区間のために像は縦長にされている。2つの水平偏向電磁石を用いて、取り出しビームの軌道を調整している。2.は、ビームラインのレベルを2.9 m振り上げるための区間の前半部分である。この区間は、2組の対称Qダブレットを用いて輸送行列として-I(Iは単位行列)を実現している。つまり、区間始点の像と同じ大きさの倒立像が区間終点に現れる。この区間の終点には、将来のオプションとしてビーム振り分け電磁石(SM1)が置かれるかもしれない。このとき、縦長ビームであるほうがビームロスを少なくできる。SM1でのビームサイズを制御するために別のQが用意されている。3.は、振り上げの区間の後半である。区間の終点は、将来のオプションとして薄い標的(T0)が置かれ、テストビームラインに利用される。この区間では4つのQを用いて点-点結像させている。4.はT0の像をT1標的に結像させる区間である。6つのQを用いてwaist-waist輸送行列、かつ、像倍率-0.5を実現し、T1標的でより小さいビームサイズを作る。冒頭の加速器からの取り出しビームパラメータを用いると、エミッタンスが24$\pi$のとき、ビームサイズおよび勾配はそれぞれ0.8 cm(半幅)および6 mr(半幅)と見積もられる。5.は、将来の第二期計画のとき、T1の像を第2の標的T2へ写す区間である。4つのQを用いて-I輸送を実現している。しかし、第1期計画では、T2の場所にはちょうどビームダンプが置かれる。ビームダンプでは、なるべくビームパワーを分散させるために、ビームをぼやかすような光学系が要求される。

ビームライン電磁石の大きさと運転磁場については、後述の1.4節にまとめた。

図 1.2: 遅い取り出しビームラインのビームエンベロープ
beamenvelope.jpg


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Yoshinori Sato
平成14年9月11日