next up previous contents
Next: 1.4 既存設備の再使用 Up: 1. 全体デザイン Previous: 1.2 ビーム光学


1.3 耐放射線電磁石の開発

二種類の耐放射線電磁石を開発した。ひとつはコイル絶縁体にポリイミドを用いたものであり、$4\times10^{8}$ Gy程度までの吸収線量まで使用可能である。他方はコイル絶縁に完全に無機物を用いたものであり、$10^{11}$ Gy程度以上の吸収線量まで使用可能である。事実上、無限の寿命を有すると考えてよい。後者については、絶縁体の種類にセメント、撥水セラミックス、酸化マグネシウムを用いたMICなど、数種類を開発したが、MICが最も取り扱いが簡単であり、コストも安い。ただしパルス磁石などには使えない。今後、本章においては、完全無機絶縁コイルといえば、MICの事を指すこととする。

電磁石を耐放射線化する場合、コイル以外の電磁石要素についても材質等の見直しを進めて行くことが必要である。具体的には

  1. マニホルドとコイル間の絶縁水パイプ
  2. 温度スイッチとその取り付け方法
  3. 冷却水ガスケット
  4. 冷却水バルブ
  5. ビームダクト用の真空ガスケット
などを耐放射線化しなくてはならない。電磁石全体の価格を上昇させないため、日用品、あるいはすでに工業化された量産品の中で、放射線環境中で使用できるものを探すことも重要である。現状においては
  1. マニホルドとコイル間の絶縁水パイプ
     セラミックスパイプの両端に銅パイプをロウ付けしたものを開発。数千本を従来のモリブデン−マンガン法で製造し、使用してきたが、内1本にロウ付け部から水漏れが生じた。モリブデンーマンガン法は基本的に水によって腐食するため、水がロウ付け部に直接触れない構造を採用していたが、現在は水によって劣化しないチタン活性化法を採用している。
  2. 温度スイッチとその取り付け方法
     アイロン、ホットプレート、自動車エンジン等に使用される全セラミックス−金属温度スイッチを採用した。取り付けはねじ止めとした。従来はプラスチック封入温度スイッチを、耐候性結束バンドで取り付けていたため、運転途中での温度スイッチの欠落が頻発していた。新システムとして以来、そのような問題は生じていない。
  3. 冷却水ガスケット
     スチーム配管などに用いられる石綿の渦巻き型ガスケットを採用した。従来のナイロンに比べると画期的な耐放射線性並びに耐熱性の向上である。しかし近年石綿の材質が悪化し、メーカーによっては安定な品質のものの供給ができない場合があるので、事前のサンプル抜き取り検査は必須である。
  4. 冷却水バルブ
     これについては全金属製ボールバルブを試験的に採用してみた。性能的には通常品と遜色ないが、価格の点で多数の使用は困難である。現在は通常のボールバルブのテフロン・ガスケット部を超弾性金属、軟質無機材などに置き換えたものを試作中である。比較的に低強度の放射線環境のために、ガスケット材質をテフロンからナイロンに交換したものも準備中である。冷却水の主配管用のゲートバルブ(ニードルバルブ)についても、同様の交換品を準備中である。
  5. ビームダクト用の真空ガスケット
     真空ガスケットはメタル・ガスケットを採用する予定である。ヘリコフレックスなどの採用を検討しているが、現在、より締め付けトルクの少ないフランジ形状の検討とともにガスケット形状等も検討中である。ガスケットを全く使わないピローシールの開発はほぼ完了している。

以上のものと同時に、遠隔アライメントシステム、水、電気、信号、真空引き口の(半自動)即着脱システムも開発中である。これらについてはそれぞれの項目においてより詳細に述べられている。耐放射線電磁石の個々のパーツはこのように、ほぼ完成したと言って良い。しかし耐放射線性はビームラインの遮蔽、メンテナンス等と組になったシステムとして考えるべきものである。このことについては、第2章で述べられている。


next up previous contents
Next: 1.4 既存設備の再使用 Up: 1. 全体デザイン Previous: 1.2 ビーム光学
Yoshinori Sato
平成14年9月11日