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現在のESセパレータを、50 GeVの大強度陽子ビームの環境下で使用する場合、二次ビームライン要素といえども生成標的に近い場所に設置されるので、耐放射線性は一次ビームライン要素と同等か、あるいは準ずる仕様が要求される。K6ビームラインに設置されているESセパレータの外観を図C.1に、K2ビームラインのESセパレーター内部の写真を図C.2に示す。次の事柄に留意して設計を見直し、改良型のセパレーターを製作する。
- 有機材料を排除する。特に、真空及び絶縁油等のシール部には、ゴム製品を避け全てメタル化を施す。
- 真空容器本体に直接取り設けられている部品(真空系、ポンプ、電極位置調整機構等)を極力減らし、本体外観を単純な形状にして、放射線遮蔽が容易に出来るようにする。
電場を形成するための電極やその支持体部分の構成部品は、金属やセラミックスを材料として作られているので、基本的にはそのまま適用できると考えられる。ただし、より強い放射線環境下における運転時の部品の温度変化や、長期に亙る性状の変質については検討を要する。真空容器の外側に直付けされるコッククロフトウォルトン型の高電圧発生装置に対しては十分な遮蔽を行うことが出来る場合でも、電圧導入部には絶縁油が使用されている。特に平面電極に近い部分は、真空容器内部であるから遮蔽ができない。耐放射線性を追求する場合、この部分で曝される絶縁油の耐性が最も重要な課題となるであろう。可能であれば、絶縁油を使用しない方策も検討したい。
ESセパレータを原子核素粒子実験施設で使用するにあたり、山本明教授と打ち合わせを持った。山本教授は、30年ほど前の泡箱実験施設の頃からESセパレーターの研究開発を手がけられ、設計・製作されたK2、K5及びK6のESセパレーター等は現在も使用されている。今後の設計指針に非常に重要と考えられるので、打ち合わせにおいて示唆された事や確認された事柄について既述の部分を除き、以下にあげる。
- 対向電極間隙をdとする時、電極端から容器内壁までの距離はd程度で十分である。(対向電極間以外の場所の電場勾配を小さくする目的で、電極端から内壁までの距離を大きく取ると、電極と内壁との間で放電が起こった際に、その放電の道筋に沿って導入している絶縁ガスのイオン化が進み、さらなる放電が誘発される。) これにより、真空容器の内径を現行機種より小さくできる可能性がある。真空容器を小型化するためには非常に重要なパラメーターである。但し、原理的にd/2より近づけることは出来ない。
- 容器の電極導入部分(feed-through)のポートに"角"をつけず、十分な"丸み(R)"を取る。30-50R程度が望ましく、突き合わせ溶接等によらずに、型鉄(swaging)などによる"押し広げ"加工等を検討する。
- 覗き窓などのポートは極力減らす。
- 今のESセパレータにある電極位置調整機構は、初期に自由度を持たせるために考案されたものである。現在の使用様態のままであれば不要と考えられるから、最低限の位置調整のみが出来るように簡素化する事を試みる。これにより真空容器の外側への部品の突出等も減らせる事になる。
- コッククロフトウォルトン型の高電圧発生装置の最大定格電圧を、実使用電圧(粒子の分離能力)と高電圧発生装置自身の寿命を検討し再考する。
開発や設計にあたり必要であれば、今後も随時、経験等を伺うこととした。
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Yoshinori Sato
平成14年9月11日