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6.5.1 熱発生について

水及び空気の冷却に必要とされる能力を計算し、概略の必要量を求める。 トンネル内並びに実験室内において、最大の熱源は電磁石である。そこでまずビーム光学が要求する電磁石のサイズと必要磁場から、大略の電力を計算する必要がある。この計算の出発点には、1.2節のビーム光学を用いた。 磁場の強さと磁石のサイズを電力に換算するには、磁場測定のデータが必要である。1.2節の第0版のビーム設計では、Q磁石として内接円半径7.5 cmのもの(Q3XX)と10 cmのもの(Q4XX)が採用されている。より具体的にいえば、Q340,Q350、Q360,Q460である。これらについては、現存するQ330とQ460の磁場測定のデータを用いた。Q330からQ3XXへの換算は単純に磁極長に電力をスケール(計算上は電流一定で電圧を磁極長にスケール)させた。D磁石としてはギャップ15 cm、磁極長3 mのものをユニットとして採用する。これにはSLACより寄贈された18D72型電磁石をモデルとして採用した。18D72は磁極長183 cm、ギャップ15.25 cm(磁極幅は約45 cmなので9D337型)の磁石で、2200A-101Vで19.8 kGaussを発生させる。これを長さ3 mにスケールアップして9D360型とする。このスケールアップ時には9D337のコイルがウインドフレームであるため、ざっとコイル形状を図面から読みとり、ビームに平行部分の導体長とビームに垂直な方向(ウインドウ部)の導体長を算出した。この両者の長さの比で励磁電圧を分配し、ビームに平行部分の導体の電圧を300/183倍した。これにウインドウ部の電圧を加えて全電圧とする。具体的には

ウインドウ部長:ビーム平行部長=8:27
である。よって
$101 \times 27 / (8+27) \times 300 / 183 + 101 \times 8 / (8+27) = 151$
つまり9D360の励磁に必要な電圧、電流は2200A-151V(約330 kW)である。このようにして計算された電力が表6.3にまとめられている。ただしこの表を作成した時点では水平偏向角度がまだ調整される可能性が高かったので、H03AB、H05ABは約20%ほどパワーを増大させている。また垂直偏向角度(振り上げ高さ)も大きく調整される可能性が高かったので、これについては100%のパワー増大方向での調整を行なっている。逆にフル励磁される可能性の低いステアリング磁石については、そのパワーを100%-0%の範囲で割り引いた。なおBS1,2,3については、BS2が二次ビームラインのD1と同じ偏向能力を有し、BS1,3がBS2の半分程度の偏向能力が必要であることから決定した。つまりK1.8-D1が9D337程度であるので、BS1,2,3をそれぞれ150 kW、250 kW、150 kWとした。以上の結果、総計は約5.1 MWとなった。一次ビームラインのSY部(Q18まで)は3.935 MW、実験室部(Q19以降)は1.145 MWという配分となった。

以上は50 GeVビームに対する推定であり。当初は30 GeVで運転されるので、必要電力はこの(31/51)$^{2}$倍である。すなわち上流部が1.45 MW、下流部が0.77 MWである。(このとき一律にエクセルで変換するのでは無く、BS1,2,3(とK1.8-D1)の磁場強度は一次ビームのエネルギーによらず、一定[二次ビームの運動量にスケール]する事に注意すること。)

表 6.3: 電力見積り1
powerestimation1.jpg


次に二次ビームラインの熱量を推定する必要がある。初期に建設される予定のK1.8とK1.1についての推定を行った。この推定で重要なことは、冷却水、空調ともに、一次ビームラインと同様の扱いをうける「上流側」と、比較的汚染が少ない冷却水、空調系で分担される「下流側」に分けて推定することである。これは荷電二次粒子ビームラインの冷却水、空調設計を行う場合に忘れてはならないことである。また「下流側」ではスペクトロメータなど、実験機材の磁石についても考慮しておく必要がある。 さて、個々の磁石についての推定を表6.6に示すが、その結果、K1.8については一次扱いが600 kW、二次扱いが2200 kW、K1.1については、一次扱いが600 kW、二次扱いが2000 kWとなった。

これらの値以外に考慮すべきは、

  1. 磁場測定器の電力: 500 kW
  2. 標的とビームダンプの除熱: 750 kW(30 GeVの場合は450 kW)である。
1.は二次ビームの下流側扱い、2.は一次ビームの実験室部扱いである。

表 6.4: 電力見積り2
powerestimation2.jpg


以上の検討の結果、第一期最小形(30GeVビーム+K1.8)では

となる。これらがそれぞれ純水1(トンネル電磁石・汚染系)、純水3(一次ライン電磁石・汚染系)、純水4(二次ライン電磁石・準汚染系)の冷却水負荷である。純水2(トンネル電磁石電源・非汚染系)の熱負荷は別に検討する。

ちなみに第一期の発展形として直ちにK1.1がK1.8と同じ標的に設置された場合、

となる。この状態で一次ビームが50 GeVとなる一期最終形では である。6.1

上記は表6.5にまとめられている。なお以上の推定において、実験装置側で必要とされるはずのスペクトロメータの電力は計上していない。SATURNEから移設されるSPES-1,2クラスのものを運転する場合には、一台あたり、なお2 MW級の冷却水(受電)容量が、二次ビーム側で必要である。K0を含むその他のビームラインについても発熱(電力)推定をおこなったが、その詳細も表6.4にあわせてまとめられている。


表 6.5: 電力見積り3
powerestimation3.jpg



表 6.6: 発熱量見積り3
heatestimation.jpg


上記の評価をもとに、必要となる冷却水流量を求める。まず必要冷却水量決定のための一般的な関係式を導いておく。まず、1 MWの除熱を考える。1 kg(1リットル)の水の温度を1度上昇するために必要な熱量が1kカロリー = 4.1855 kJであるから、毎秒Xリットルの冷却水の温度が平均20度上昇するとして、これで持ち去ることができる熱量は、

\begin{eqnarray*}
X({\it l}/秒)\times 4.1855[kJ/(kg\cdot ^{\circ}C)]\times 20^{\circ}C &=& 83.7X(kJ/秒) \\
&=& 83.7X~(kW)
\end{eqnarray*}

となる。1 MW=1000 kWの熱量を取り去るには

\begin{eqnarray*}
1000/83.7 &=& 11.9{\it l}/秒 = 716{\it l}/分
\end{eqnarray*}

の冷却水が必要である。これで上記の発熱量を、冷却水量に換算できる。なお上記議論から受電容量を導く場合には、ビームの除熱のために必要な冷却能力を差し引けば良い。

純水2の必要量を推定するためには、二通りの考え方が出来る。まず、電源内の発熱量を、電源の供給している電力のほぼ5%程度と考え、それを水冷すると考える方法である。この場合、必要全電力の5%の熱量を水で取り去ればよい。電源については冷却水圧を下げ、かつ平均温度上昇を10度程度に抑えるために、基本的には必要冷却水量は、純水1,3,4の総量(からビームの除熱のための水量を引いたもの)の10%となる。

電源の冷却水量を決めるもう一つの方法は、従来の電源の平均流量が一台あたり20 l/分であることから、電源の台数(ほぼ磁石の台数)$\times$ 20(l/分)とすることである。これだと、上記の方法よりもかなり流量が増えることとなるが、電源個々に流量調整をするといった手間がかからない。実は電磁石についても同じことが言えて、コイル設計の都合で実際の流量が必要量を上回ってしまうことがある。この場合、個々の磁石のマニホルド部に邪魔板を組み込むなどして調整するのだが、調整しきれない事も多く、安全のために2-3割は多めに水を流せる容量のポンプを準備する必要がある。この意味では上記716 l/分を、例えば1000 l/分として計算しておけばよかろう。1 MW$\sim$1000 l/分とすれば、覚えやすいという利点もある。このようにして決まった冷却水容量も表6.5にまとめられている。表6.5には、同時に導かれた必要受電容量も同時に示されている。


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Yoshinori Sato
平成14年9月11日