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大強度陽子
加速器

原子核素粒子
実験施設

KEK

素核研

JAEA

12GeVPS

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CP,T,CPT不変性の破れ
Violation of CP,T, CPT Invariance [English]
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S. Glashow, "From Alchemy to Quarks" (1994)
ISBN 0-534-16656-3, Fig 14.12

原子核や素粒子は”スピン”と呼ばれる方向軸を持っています。 C.S.Wuらは 1957年に有名な実験を行い 「コバルト原子核の崩壊によって生じる電子は、 原子核スピンの逆の方向に出やすい」ことを 発見しました。 上の図で説明すると、スピン(赤矢印)の反対向きに出るa. の割合が 同じ向きに出るb.の割合よりも大きいのです。

a. を鏡に映すと、 鏡の中ではスピンの向きが反転するので b. になります。 (上の図の右側で確認して下さい。) C.S.Wuらの実験が示した 「鏡に映すと物理法則は同じでなくなる」 ことをすでに予言していた 理論物理学者T.D.Lee と C.N.Yangは1957年にノーベル物理学賞を受賞しました

自然が特定の”方向”を好むとき、
物理法則の”不変性(もしくは対称性)が破れている” といいます。
原子核や素粒子をより精密に調べて 物理法則の”破れ”を発見することは、
大強度陽子加速器の大きな目標です。

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 - P不変性とCP不変性 -

■ 物理の方程式に対して ”二回続けて同じ操作を行うと元に戻る”次のような特殊な変換を 行うと、物理法則の一般的な性質を調べることができます。
  • パリテイ(P)変換: 座標の向きを逆に置き換える操作
  • 荷電共役(C)変換: 粒子を反粒子に変換する操作
  • 時間(T)変換: 時間の向きを逆に置き換える操作
ある変換に関して自然が特定の方向を好む場合、 その変換の不変性が破れていると言います。
■ C.S.Wuらの実験によりパリテイ不変性が破れていることが わかりましたが、物理の法則を ”P変換とC変換を同時に行えば物理法則は不変になる”と修正することで この現象は説明できました。 ところが1964年、V.FitchとJ.Croninの実験で 「中性K中間子の崩壊では CP不変性がわずかに破れている」ことが発見されました。
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 - CP不変性の破れ -

■ 2001年に、KEK-BファクトリーのBelle実験などが B中間子の崩壊によるCP不変性の破れ を発見しました。 またK中間子でも、新たに 直接的なCP不変性の破れが見つかりました。 これらの結果は、素粒子の標準模型、特に小林益川理論を強く支持しています。
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 - T不変性の破れ、CPT不変性 -

■ K中間子の崩壊では T不変性もわずかに破れていることが実験で確かめられています。
■ ”CP変換とT変換を同時に行えば物理法則は不変になる” というCPT不変性の定理が理論から証明されています。 T不変性の破れは、CP不変性の破れとCPT不変性の定理の組み合わせから 予想される大きさと一致しています。
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 - 何を目指すのか? -

■ 現在測定されているCP不変性の破れでは、実は 宇宙で物質が反物質より多い理由を充分説明できません。 小林益川理論の予言の他にも、 CP不変性やT不変性の新しい破れがあると考えられています。 大強度陽子加速器では、その新しい現象を研究する実験が計画されています。

K中間子を精密に測定して、CP不変性やT不変性の新しい破れを見出す実験
ニュートリノの振動と反ニュートリノの振動の違いから CP不変性の破れを測定する実験
CPT不変性が厳密に成り立っているかを検証する実験

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小松原 健(KEK素粒子原子核研究所)
最終更新 2004-May-20(Thu)