KEK Report 97-4

June 1997

H/D


Real Time Monitor on the Internet for the Super Conducting Magnet "BENKEI" and the Liquid Hydrogen Target (in Japanese)

 The low temperature devices, like super conducting magnets or liquid hydrogen targets, are very important apparatus for high energy physics.

 The E-248(AIDA) "Search for H-particle in reaction of pp→K+K+X " experiment at KEK-12GeV-PS(proton synchrotron) used the super conducting spectrometer magnet "BENEKI" and the liquid hydrogen target.

 These two low temperature devices were controlled and monitored by the personal computers(PCs). The operation data, temperature and pressure and liquid levels etc., were monitored on the Internet every 10 sec. The captured graphic data of the PC displays were condensed and monitored on the Internet every 5 min.

 The monitoring of the experimental apparatus by the Windows-PC becomes very common. We developed the new method to monitor the numerical data and the graphic data of Windows-PC displays on the Internet. These data could be monitored by HTTP(Hyper Text Transfer Protocol) and FTP(File Transfer Protocol) on the WWW(World Wide Web) from remote terminals and also home PCs.


超伝導マグネット「弁慶」と液体水素ターゲットの インターネットからのリアルタイムモニター

石元 茂、 鈴木祥仁、 都留常暉

高エネルギー加速器研究機構

素粒子原子核研究所

〒305 つくば市大穂1-1

T はじめに

 超伝導マグネットや液体水素ターゲットなどの低温装置は、高エネルギー物理実験において極めて重要な役割を担っている。

 KEK(高エネルギー加速器研究機構)-12GeV-PS(プロトンシンクロトロン)で行われたE248(AIDA)「pp→K+K+X反応におけるH粒子の探索」実験(1)(2) では、運動量測定用スペクトロメーターである超伝導マグネット「弁慶」(3) と液体水素ターゲット(4)(5)(6) の2つの低温装置が使用された。

 これら2つの低温装置を2台のパーソナルコンピューター(PC)を用いてコントロールした。また、装置の温度・圧力・液面などの測定データを約10秒ごとにインターネットを通じてモニターした。さらに、Windows上のPCディスプレー画面全体を5分ごとにキュプチャーし、得られた画像を圧縮してインターネット上からリアルタイムにモニターすることができた。

 最近、PCによる各種実験装置のモニター(7)(8) は低温装置に限らず、極めて一般的におこなわれている。今回開発した方法を用いることによって、Windows上で稼働する各種測定プログラムの表示画面と測定データを、インターネットのWWW(World Wide Web)上のHTTP(Hyper Text Transfer Protocol)やFTP(File Transfer Protocol)を通して端末や自宅からリアルタイムにモニターすることが可能になった。


U 実験装置と PC モニターシステム

 超伝導マグネット「弁慶」と液体水素ターゲットを用いた高エネルギー物理実験の例として、図1 にAIDA実験のセットアップを示す。  

2-1 超伝導マグネット「弁慶」

 「弁慶」は超伝導コイルと鉄ヨークを持った、有効口径 1.0(H)×1.53(W)×1.0(L) mの運動量測定用スペクトロメーターマグネットである。中心での最大磁場はコイル電流が610 Aにおいて1.5 Teslaで、この時のfield integral∫By dzは 2.1 Tesla mである。AIDA実験の場合はコイル電流を450Aで使用した。このときの中心磁場は1.2 Tesla、field integral は 1.68 Tesla mである。

 コイルのインダクタンスは17 Hで、最大電流値610 Aでの蓄積エネルギーは3.15 MJ である。また、cold massは5.64 t、総重量は16.3 tで、液体ヘリウムと液体窒素のタンク容量はそれぞれ300 l、120 lである(3)

 AIDA実験でのコイル電流が450 Aの使用時においては、液体ヘリウムは1,000 lの容器から1日2回、トランスファーロスを含めて約500 l/日 が定期的に供給される。コイルに電流を流さない場合は、ヘリウムの消費量は約1/2となる。電流導入部の発熱は蒸発したヘリウムガスによって冷却される。このため特に通電中は、液体ヘリウムの液面のモニターと電流導入リードに流れるヘリウムガス流量確保のためのモニターが重要である。また、液体ヘリウムを供給する時は、条件によって変動する弁慶内ヘリウム漕の圧力と、供給するヘリウム容器の圧力差(0.25〜0.25 kg/cm2)をできるだけ一定にコントロールしなければならない。このことは、ヘリウムトランスファーロスを少なくする効果がある。また、弁慶はヘリウム漕のポートを2カ所もつ複雑な構造であるため、この2カ所のヘリウム圧が変動し、ヘリウム液面が振動する現象がある。ヘリウム液面が振動することでコイルが液面から露出してクエンチを起こさないためにも安定したトランスファーが必要である。

 弁慶コントロールの概念図を図2に示す。各データの入出力は、PCの拡張バスに接続された、ADC/DAC/DIOによって行われる。弁慶のコントロール項目は以下の通りである。

  (A)各部の温度・圧力・液面・流量のモニター。

  (B)電流導入端子に流れるヘリウムガス流量のモニターと回収系の遮断によるヘリウムガス流量確保のためのバルブON/OFF操作。

  (C)ヘリウムトランスファー時における、ヘリウム容器内圧と弁慶内圧との差圧の設定と自動コントロール。

  (D)液体窒素の液面計と供給バルブによる自動供給。

  (E)各種アラームコントロール。高低各設定範囲からはずれた場合のアラームおよび、液体窒素emptyなどの論理によるアラーム。

  (F)自動およびマニュアルによるバルブ操作。

2-2 液体水素ターゲット

 液体水素ターゲットの全体図(図3)とターゲット部(図4)の構造を示す。

 ターゲット本体は回転台の上に配置されて、ビーム軸上へのセット、オフセットが容易にできるような構造になっている。液体水素のターゲット部は直径50 mm長さ250 mmの円筒形で、厚さ0.05 mmのステンレス薄板を材料に、ステンレス半田とアルゴンアーク溶接を組み合わせて加工されている。ターゲット部にはPt-Co温度計(Chino;R800-6)、CC温度計、液面モニター(6) のためのカーボン抵抗温度計(Allen Bradley 100Ω 上下2個)が取り付けられている。ターゲット部の真空容器の側面は直径100 mmで平均の厚さ0.74 mmのカーボンファイバー・エポキシ(CFRP)の円筒である。ビーム軸上の真空窓は上流下流部とも厚さ0.05 mmのステンレス薄板で作られている。

 この液体水素ターゲットを運転する上で、液体水素の圧力、すなわち温度を一定にコントロールする事は、水素密度とターゲット形状を実験中一定に保つために重要である。また、ターゲット容器の低温における疲労をできるだけ避けるという安全面からも効果がある。我々は水素圧測定用の温度コントロールを行った静電キャパシタンス方式の高精度圧力計(Baratron;127A 0-5,000 Torr; 0-10V)の出力が一定になるようにコンデンサーヒーター(640Ω)の出力をPIDで自動制御した。

 液体水素ターゲットのコントロールの概念図を図5に示す。水素ターゲットのデータはGPIBを通じてデータロガー(HP3421A)によって収録され、GPIBで接点ユニット(エムシーアイエンジニアリング;SWR-488Z)やヒーター用DC電源(高砂;DG0110-2, AP-1228T)がコントロールされる。測定ラックとPCがあるオペレーター室は約30 m離れているためGPIB-Extender(HP37204A)を用いてシリアルに変換してデータ交信を行った。このシステムで収録・コントロールされる項目をまとめると以下の通りである。

  (A)各部の温度・圧力・液面・真空・ガス漏れなどのモニター。ヒ−ター電力は電流、 電圧測定から計算する。また、Pt-Co抵抗温度計、CC熱電対のような非線形温度 計は校正曲線を用いて温度に換算した。CC熱電対の基準温度は接点部の室温にお いたPt-Co抵抗温度計から求めた。

  (B)コンデンサーの温度コントロール。Baratronにより、水素圧力が一定になるよう にヒーター出力がコントロールされる。

  (C)各種アラームコントロールとアラームステータスの表示。各測定値がHi-Loの設定範囲からはずれた場合のアラームON。さらに、各部の温度・圧力に応じた論理を組んで冷凍機・圧縮機の遮断やヒーターのON/OFF、アラームのON/OFFをおこなう。これは装置が何らかの原因で設定範囲を逸脱した場合の安全対策をソフトによって行うものである。なお、Hi-Lo設定付きDVMを用いたハードウェアのみによる安全対策(停止条件設定による冷凍機・圧縮機・ヒーターのOFF)もフール・プルーフの意味で採用している。

  (D)冷凍機・圧縮機のリモートON/OFFとステータスの表示。PCのキーボードからこれらの操作が可能になっている。


V インターネットへのデータの Upload

3-1 MS-DOS(N88BASIC) による UNIX マシンへの Upload

 最初に、インターネットへのアップロードをKEK内のLANとUNIXサーバーマシン(psux.kek.jpとpsux1.kek.jp)を使用して行った。弁慶用はPC9801VMでコントロールし水素用はPC9801RAでコントロールした。それぞれ、MS-DOS上のN88BASICによる専用の測定プログラムを用いた。

 まず、PC9801のN88BASICによる測定プログラムからRS-232C経由でKEK-LANを通じてUNIXマシンへ測定データを転送した。UNIXマシン上で一定時間ごとにテキストデータを表示する簡単なプログラムを使用することで、このデータを端末からモニターできた。また、Anonymous Loginが可能なUNIXマシン上のディレクトリ(/public_html/)にアップロードすることで、Netscape NavigatorなどのWWWブラウザでもモニターが可能であった。このときアップロードするテキストデータをHTTP に対応したHTML(Hyper Text Markup Language)文書にすることで、ブラウザでの表示方法をデータ内に記述できる。この方法で、ブラウザが数分ごとにデータを自動的に更新する、Autoreloadの設定と表示のformatを行った。

 このプログラムの起動時にPCからUNIXへログインする方法は、N88BASICで記述した主プログラムから、LANを通して行う事が可能であった。しかし、より簡便な方法としてPC9801用のKermitを用いてUNIXマシンにログインした後、測定プログラムを起動する方法を用いた。このときのアップロードは、通信にかかる時間を考慮して、主プログラムが約10分ごとに測定データをハードディスクドライブ(HDD)に記録するタイミングで行った。この方法は液面のモニターといった時間的に遅い現象では十分実用的であったが、数値データのアップロードにかかる時間をより短縮する方法が求められた。

3-2 Windows95/NT によるインターネットへの数値データの Upload

 最近のPC用OSである「日本語MS-Windows95(+ Personal Web Server 1.0 for Windows 95)」や「日本語MS-Windows NT3.51/4.0」などを用いると、PCをインターネットのサーバーとして使用することができる。PCにサーバー機能を付加することで、インターネットに対して直接WWWサービスやFTPサービスが可能になる。この方法を用いると、わざわざこの2つのサービスのためにUNIXマシンへ時間をかけてデータを転送する必要がなくなる。

 前項の目的で、OSに日本語MS-Windows95を使用してイーサネットカードとTCP/IPプロトコルを用いたインターネット接続を行った。PCはWindows95に要求されるスペックから、弁慶用PCをPC9821Xa(Pentium-200MHz)に、水素ターゲット用PCをPC9801BX4(486DX2-66MHz)に変更した。この場合、N88BASICで記述した主プログラムはWindows95のいわゆる「MS-DOS窓」で実行される。

[3-2-1] WWWサービス

 PCで得られた数値データをWWWブラウザでアクセス可能なHDD内のディレクトリー(/Webshare/WWWroot/)に直接書き出した。この方法で測定データの転送に必要な時間はPC用HDDへの転送時間(約0.1秒)のみとなった。それゆえ、主プログラムのモニタリング・サイクルの10〜16秒ごとにWWWブラウザ用の数値データを更新してもプログラムへの時間的な負担はほとんどなくなった。UNIXマシンの場合と同様にWWWブラウザ用の数値データはHTML文書とし、この文書内で1分ごとのAutoreload設定を行った。

 表1にHTML文書化した弁慶のWWW用の数値データの例を示す。図6はこれをWWWブラウザ上で表示した一例である。

 表2にHTML文書化した液体水素ターゲットのWWW用の数値データの例を示す。液体水素ターゲットの場合も同じ方法でWWWブラウザで数値データが表示される。(図7)  この、インターネット/WWWへのデータ転送の方法は、単にHTML文書化したテキストファイルをきまったWWW用のディレクトリーへ書き込めばよいので、プログラム言語によらない一般的な方法であるといえる。

 Windows NT3.51/4.0の場合もテストを行ったが、N88-BASICのGPIB拡張部の制約によるハングアップで、液体水素ターゲットの主プログラムが動作しなかった。GPIB機能を用いない場合はプログラムは正常に稼働した。このため、今回我々はWindows95をOSとして使用した。

 前述のようにWWW用の数値データのアップロードに要するHDDへのアクセス時間は0.1秒程度で行われる。このため、もし必要なら本体のプログラムにより測定のサイクルタイム10〜16秒をさらに10分の1程度に短縮することは可能である。しかし、弁慶や水素ターゲットのような低温装置のモニターという目的では、これ以上の測定時間およびサイクルタイムの短縮は必要ないと考えられる。

[3-2-2] FTPサービス

 収録したログデータはWWWブラウザ表示用の数値データとは別に、20-30サイクル分のデータをまとめて1つのファイルにし、テキストファイルとしてHDDに記録している。1サイクル分の全チャンネルの計測データを「1 data」と呼ぶとすると、次のようなデータ量と記録時間になる。なお、弁慶の場合は1サイクルは10秒ごとにループを開始するように時間コントロールを行っている。

 このファイルをFTP転送可能なディレクトリー(/Webshare/Ftproot/)に書き出すことで、FTPサービスによる他のコンピュターからのデータ閲覧が可能になった。

 今回はセキュリティ等の問題もあり実行しなかったが、主プログラムでサイクルごとに各種設定ファイルを読み込むようにプログラミングした場合、その設定ファイルを他のコンピュータからインターネットを通してFTP転送、またはブラウザにより書き換えることができる。すなわち、設定値の変更や装置自体のオペレーションがインターネットからのリモートコントロールで容易に可能となる。もしも、セキュリティ強化の必要が生じた場合は、これらのWWWサービスとFTPサービスに対してアクセス制限を行うためのパスワードを設定することができる。

3-3 Windows95/NT によるインターネットへの画像データの Upload

[3-3-1] PC画面のキャプチャーと画像ファイルの変換

 今回測定に用いた弁慶用PC9821Xaおよび水素ターゲット用PC9801BX4のディスプレー表示画面は800×600 dots, 256 colorsである。このうち測定プログラムに使用している「MS-DOS 窓」は640×480 dotsである。

 画面キャプチャーはソフトで行う以外にも、たとえばPC9801ではCOPYキー、IBM互換機ではPrint Screenキーを押すことでも可能である。画面キャプチャーした画像をビットマップ(BMP)ファイルとして保存するにはペイントブラシなどの画像表示ソフトが使用できる。画面キャプチャーや画像の表示・保存が可能なソフトは数多く存在する。

 これらのソフトを用いて、2つのPCで各装置をモニターしている画像をそのまま全画面キャプチャーしてHDDに保存した。しかし、主要なWWWブラウザは、データ量の大きなBMPファイルには対応していないので、BMPからGIFまたはJPEGといった画像ファイルへの変換が必要である。そこで、得られた約440KBのBMPファイルを約23 kBのGIF(またはJPEG)ファイルに、画像表示ソフトを用いて変換することでWWWブラウザ用の画像データとして使用できるようにした。

[3-3-2] Windows上のバッチプログラム

 上に述べた操作を自動的に行うために、Windows上で動作する簡単なバッチプログラムを開発した。このプログラムは「MS-DOS窓」の主プログラムとは独立したマルチタスクで動作し、PC画面のキャプチャーとBMPからGIFへの変換を行い、それを一定時間ごとに更新するということが可能になった。

 表3に使用したウィンドウ・バッチプログラムを示す。Windowsのバッチプログラムはsharewareの「WinBatchEh 1.27 (Batch File Enhancer for Windows)」(9)上で動くものである。このバッチソフトはMS-DOSのバッチからさらにいくつか命令が拡張されている。

 画面キャプチャー・ソフトは「CliPlu Version 1.0」(10)を使用した。あらかじめ、このソフト専用の設定ソフトで保存ファイル名・切り取り範囲などを設定をしておくと、メインのキャプチャーソフトをバッチから起動するだけで画面をキャプチャーしBMPで保存できる。このとき自動的にBMPファイル名にナンバーをカウントアップして付加してゆくので、キャプチャーする前にディレクトリー内のすべてのBMPファイルをあらかじめ削除している。サイクルごとにBMPファイルの削除をしないと、すぐにHDDが一杯になる。

 BMPからGIFファイルへの変換ソフトには「RAS BMP TIF GIF XWD Q0 JPG 相互変換 ver 1.9」(11)を用いた。このソフトはMS-DOSコマンドラインで入力・出力ファイル名を「***.BMP」「***.GIF」のような拡張子付きで記述するだけで画像ファイルの相互変換が可能である。

 後者2つの画像関係のソフトはfreewareである。

[3-3-3] PC 画像データのWWWブラウザでの表示

 図8に弁慶プログラムのPC画像データの例、図9に液体水素ターゲットのPC画像データの例を示す。それぞれ、WWWブラウザにはNetscape Navigatorを使用し、表示されたPC画像の上半分は、ADC/DIOなどの数値データで、下半分は24時間をフルスケールとした時刻を横軸とした、数値データの時間プロットである。なお、現在時刻から24時間より以前に記録されたプロットは上書きによって消去されてゆく。この画像ファイルへのLINKを含んだHTML文書内で5分ごとのAutoreload設定を行っているため、WWWブラウザ上でも5分ごとに画像データが自動的に更新される。全画面をキャプチャー・変換しHDDに記録するのに486DX2-66マシンで約2秒であったが、Pentiumマシンでは約1秒に短縮された。

 以下に、実際にAIDAグループのホームページ(http://psux1.kek.jp/~AIDA/)および弁慶・水素ターゲットのホームページ(http://psux1.kek.jp/~benkeh2t/)で使用している弁慶のPC画像を表示するためのAutoreload設定を行ったHTMLの例を示す。水素ターゲットの場合も同様である。Autoreload設定は4行目で行っている。


W 実験結果と考察

 AIDA実験に使用されている超伝導マグネット「弁慶」はPCと拡張ボードを使用したADC/DAC/DIOシステムによって、温度・圧力・液面・流量などのデータ収録とコントロールがなされた。特に、電流導入端子保護のための安全装置(バルブによるヘリウムガスの大気開放)の自動操作が行われた。また、液体ヘリウムのトランスファー中は、弁慶内圧と供給ヘリウム容器内圧の差圧を常に一定に保つようにコントロールされた。

 液体水素ターゲットではGPIBを用いたデータ収録・コントロールシステムによって、運転に必要なほとんどすべての操作がPCからリモートで行うことができた。液体水素コンデンサーのヒーター電圧を水素ガスの圧力に対してPIDコントロールを行った。このコントロール用のヒーターの電流・電圧を測定することで、冷凍機の冷却パワーの変化を今回初めて連続してモニターすることができた。

 このコントロールシステムで得られた液体水素ターゲットの冷却時間を図10 に示す。 冷却スタートからの所要時間は、ターゲットに液体水素がたまり始めるのに4時間15分、ターゲット内に液体水素で満たされ、実験が可能になるのに5時間である。そして、コンデンサーヒーターが安定した自動コントロールの状態になるのは、冷却スタートから約7時間である。

 次に、液体水素ターゲットの定常状態の運転状況を図11に示す。横軸は24時間で、この間コンデンサー温度が20.8±0.01 Kで非常に安定しているのがわかる。実際のターゲットまでは2本の直径1/4インチ長さ1.5mの長い配管(銅およびステンレス・フレキシブル管)で接続されているので、温度差の平均5.6 K程度の温度勾配ができる。また、冷凍機の冷却パワーが変化してもヒーターでよく制御されていることがわかる。

 弁慶と液体水素ターゲットは今回開発した2つのコントロールシステムによって、各装置の安定性・安全性・信頼性がこれまでに比べて大きく向上した。これらのシステムは超伝導マグネット「弁慶」と液体水素ターゲットを使用する実験には必要不可欠なものとなっている。

 データ収録で得られた数値データとPCディスプレーの画像をインターネット上にアップロードすることに成功し、HTTPを用いてWWWブラウザからリアルタイムにモニターすることができた。また、FTPサービスが可能になり、測定用のPCに内臓されたHDDに記録された測定データを、他のPCからのリモートコントロールで直接転送することができるようになった。

 今回開発した方法は、物理実験と装置の運転をおこなう者にとって、安全対策の向上という点のほかに、装置の監視やコントロールへの対応が容易になるという点においても大きな進歩となった。特に研究室の端末や自宅のPCからといったような、時と場所を選ばずにインターネットによる監視が可能となり、装置の長時間運転に極めて有効であった。弁慶を液体窒素温度に1ヶ月以上長期間保冷するといった場合は、出張中の海外の端末からでも装置の監視が可能であった。

 今回、WWW用の数値データは10〜16秒ごとに、画像データは5分ごとに更新されたが、Pentium/Pentium-IIなどの高速なCPUを使用したPCを用いることで、今以上の高速化が期待できる。また、主プログラムをC言語や専用の制御用プログラムに移植することで、さらに高速化できるとともにPC/AT互換機でもこの方法が可能となる。高速化することによってこの方法は、他の物理実験装置や加速器などへの新しい応用がいろいろと考えられる。Windows上のバッチプログラムに使用している各ソフトも今回用いた2つのソフトの組み合わせ以外に、画面キャプチャーとGIF/JPEGファイルへの変換を同時に行うなどでもっと高速なものにできる可能性がある。


 謝辞

 弁慶と水素ターゲット装置の改良と運転に、たゆまない理解とサポートをいただいた中井浩二教授(現東京理科大)、中村健蔵主幹、高松邦夫教授(現宮崎大工)および保安係員の皆様に感謝いたします。

 物理低温グループおよび共通系低温センターの皆様には高圧ガス設備の運転・保守や液体ヘリウムの供給などで大変お世話になりました。とくに笠見勝哉さんには水素ターゲット液化機とコンプレッサー電源の改造をしていただきました。鈴木善尋さん、児玉英世さん、田中伸晃さんらにはいろいろ便宜をはかっていただきました。

 ηπ、AIDA実験の各グループのメンバーの皆様には弁慶と水素のオペレーションと有益な議論をしていただきました。水素ターゲットでは、Dγグループの皆様にオペレーションやコントロールの議論でお世話になりました。最後に今回のソフトで使用させていただいたfreeware / sharewareの作者の方々に感謝いたします。


 参考文献


表1 弁慶数値データ表示用 HTML(http://BenkeiPC.kek.jp/tempf.htm)

表2 水素ターゲット数値データ表示用HTML(http://LH2TPC.kek.jp/tempf.htm)

表3 ディスプレー画像処理バッチプログラム


図の説明


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